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研究概要

久保田 聖  澁澤健二  山田尚寛  渡辺大地  山岸 克久










































久保田 聖(2004年研究生 [継続])
博士論文研究:空気プラズマジェットの分光学的研究


研究内容

  国際宇宙ステーションなどに代表されるように宇宙空間活動が現実になっています.SFの世界の話ではなく,近い将来には月やその他の惑星への宇宙旅行も可能となるでしょう.活動,旅行後には地球に戻るため地球大気へ突入します.10 km/sec 以上にもなる再突入速度により機体前面の空気は圧縮され衝撃波が形成されます.衝撃波−機体間では空気がプラズマ化し,そのプラズマの対流と放射により加熱されます.場所が場所なだけに気軽に実験を行うことはもちろん不可能です(しかし,再突入の際には加熱量などのデータは取得しているようです).この空気プラズマの放射特性を詳細に把握すれば,機体への加熱量をより正確に推定することができるため,非常に重要です.もちろん他惑星への突入ならばその惑星の大気組成を考慮しなくてなりません.
  研究対象はマイクロとつくほど,小さなプラズマジェットです.アーク放電を利用したマイクロプラズマ発生装置により長時間かつ安定したプラズマジェットを得ることができます.作動ガスに「空気」を使用した空気マイクロプラズマジェットです.
  高温のプラズマからは強い光が放射されます.その放射光は放射源のエネルギー状態を反映しています.原子からは,原子核に束縛されている電子配置が変化するために一般に線スペクトルが得られます.分子からは,電子状態,振動および回転のエネルギー状態変化による帯状(バンド)のスペクトルが得られます.これらのスペクトルを分光学的に測定し,理論的な解析することにより空気プラズマの放射特性を研究しています.
  従来は大気圧下における空気マイクロプラズマジェットを対象に測定・解析を行っていました.一般的に大気圧アーク放電では平衡状態になりやすいと言われていますが,我々が研究しているマイクロプラズマジェットは大気圧下においても強い熱的非平衡状態にあることがわかりました.熱的非平衡状態とは原子や分子,電子のそれぞれのエネルギーのバランスがとれていない状態で,各粒子の持つ温度が異なります.マイクロプラズマジェットの温度は回転温度は分子種により約7,000〜9,000 K,振動温度はとても高く,28,000 Kと推定されています.なぜ,振動温度が非常に高いのかはわかっておりませんが,その理由を調査中です.
  現在は,大気圧とともに,低圧中での空気マイクロプラズマジェットの放射特性を主に研究しております.低圧中ではジェットの状態,発光の様子が大気圧中とは異なっており,興味が尽きません.

  右の画像は,大気圧下での空気マイクロプラズマジェットです.実際の放電長は3.0mmですが,PC画面上では約2倍に見えていると思います.

Ver. 2.01 久保田 聖


Photograph of a Micro-air Plasma-jet
at an Atmospheric Pressure
Copyright© Ene1

2004/08/20



澁澤 健二(2004年博士入学)
博士論文研究:高温度プラズマ流における非平衡スペクトル放射に関する
実験的・理論的研究

Experimental and Theoretical Study on Nonequilibrium Spectra in High-temperature Plasma Flows
WebSite


 はじめに
 私は、窒素分子を対象とした粒子数分布を理論的に解析しています。分子という大変ミクロな世界の現象を理解しようというもので、目で直接見ることができません。そこで、ミクロな現象をイメージすることが重要です。まずは研究の基礎となる2原子分子のモデルをイメージしてみましょう。

イメージしてみよう
 2原子分子は2つの原子から成り、その原子の間はバネで結ばれていると考えることができます。すると、1つの分子が持つエネルギーには4つのモード(形態)が考えられます。分子そのものが空間を移動する並進モード、バネにより2つの原子が振動を起こす振動モード、分子が回転軸まわりに回転する回転モード、分子の周囲をまわる電子がより高いエネルギーを持つ軌道に移動する電子的励起モードです。並進モードについては、今まで私達が学んできた分子の運動エネルギーに相当するもので連続のエネルギーを持ちます。しかし、振動・回転・電子的励起モードは量子化されており、とびとびのエネルギーをとります。このとびとびのエネルギーを準位と呼びます。
   
2原子分子のモデル
   

 さらにイメージしてみよう
 私達の周囲を取り巻いている空気中には、様々な大きさのエネルギーを持った分子が飛び交っており、そのエネルギーの大きさにより各準位上に分子が分配されています。常温などの低温度下では、低いエネルギーを持った粒子(分子)が多く、高いエネルギーを持った粒子が少ない分布となっています。これら準位上の粒子は他の粒子との衝突を繰り返し、そこでエネルギーの授受が行われているため、粒子は準位間を移動し続けています。低温度下では、準位上の粒子数分布はボルツマン分布に従い、相対的な準位上の粒子数に変化はありません。このようなボルツマン分布が成り立つ状態を平衡状態と呼びます。一方、アーク放電や強い衝撃波において発生するプラズマでは非平衡状態となり、ボルツマン分布に従わないと考えるのが一般的になってきました。

 研究内容
 粒子数の保存方程式であるマスター方程式を解くことにより、回転準位上の非ボルツマン粒子数分布について解析的な研究を行っています。マスター方程式より得られた非ボルツマン分布は、高い回転エネルギーにある粒子ほどボルツマン分布から相対的に粒子数が減少した分布となります。このような非平衡回転粒子数分布の考慮が必要であると考えられる特徴的な分布が、本研究室で系統的に研究されている空気マイクロプラズマジェット中の高温度プラズマの放射測定で観測されています。
 高温度プラズマの放射測定で観測された実験スペクトルは、高振動準位を有するN2 2+バンドにおいて従来から用いられている平衡放射理論では説明できないことが確認されています。そのため、N2 2+バンドにおいて、スペクトルマッチング法を用いた信頼性の高い温度推定ができません。本研究では、実験スペクトルをより正確に再現するため、N2 2+バンドを発生させるN2 C状態において前期解離非ボルツマン回転粒子数分布を考慮することで、より精密な理論スペクトルの構築を行いました。現在は、低圧プラズマジェットの放射測定より得られたデータから、N2 2+バンドにおいて、前期解離および非ボルツマン回転粒子数分布を用いた理論スペクトルと実験スペクトルの一致性について調べ、さらに振動・回転温度の推定を行っています。
 現在、非ボルツマン回転粒子数分布の計算には回転準位間の衝突遷移および放射遷移を考慮していますが、今後、電子衝突遷移および振動準位間の衝突遷移を考慮し、より詳細な解析を行い、さらに、異なるプラズマ現象に対しても実験的・理論的に検討を行う予定です。

 最後に一言
 本研究では、量子力学や物理化学の知識が基になっています。機械システム工学科では習得してこなかった分野でありますが、基礎的知識から理解していけば研究は進められますので、心配はいりません。漠然とでもいいですから宇宙工学や量子物理に興味のある人は、ぜひ当研究室を訪ねて下さい。

2004/08/14



山田 尚寛 (2003年修士入学)
修士論文研究:CCDを用いた空気マイクロプラズマジェットの放射測定


−研究内容−

  プラズマは普通の気体にはない特性を持っています。導電性がある、光の放射がある、常温の気体では期待できない原子・分子反応が起こる、などです。このようなプラズマの特性は、気体レーザー、加速器や質量分析計のイオン源、分光分析光源、照明光源、プラズマ化学反応炉など多方面で利用されており、プラズマの特性を研究し、その内部状態を解明することは、学術面においてはもちろん、工業的応用においても大変重要であります。
  プラズマの特性を探る有効な手段として、スペクトル解析が挙げられます。放射光のスペクトルは、そのエネルギー状態を反映しており、スペクトルの解析を通じて、プラズマの温度や電子密度、イオン密度などの情報を得ることができます。
  私は、当研究室が所有する超小型プラズマ流発生装置により発生させた数ミリメートルオーダーの極小空気プラズマジェットを研究対象とし、分光学的な手法により空気プラズマの物理現象の解明を行っています。ジェット内部には、空気の主成分である窒素と酸素の粒子(分子、原子やイオン)の他、自由電子など様々な粒子が存在し、放射光にはそれらが放つ光が混在しています。この放射光を、特定の波長域の光のみを透過するフィルターを通してCCDカメラで測定することにより(CCD分光測定法)、窒素、酸素原子が放つ光(原子線)の放射強度分布を一度の測定で空間的に取得することに成功しました。また、それらの強度データを解析することにより、ジェット内部の電子温度の分布が明らかになりました。
  学部四年次より、大気圧下で発生させたジェットを対象に研究を行ってきましたが、今年になって特製の真空容器が完成し、低圧力下での実験が可能となりました。現在は、雰囲気圧力がジェットの特性に及ぼす影響について検討を行っています。数ミリメートルオーダーの極小ジェット内部では、現状では説明のついていない複雑な物理現象が生じており、それらを解明していくことが私の研究です。

CCDで測定したジェットの様子

2004/08/13


渡辺 大地(2003年修士入学)
修士論文研究:多温度モデルを用いた融合衝撃層の解析


−研究内容−

 宇宙船が宇宙空間から地球大気圏に再突入する際、機体前面には強い衝撃波が形成され、衝撃層内は強い熱化学的非平衡状態となります。そのため機体は衝撃層内の気体により著しい空力加熱を受けることになります。
 本研究では低密度極超音速流れ場を対象とし、流れのモデルに解離反応、電離反応、再結合反応を含む従来の4温度モデル(重粒子並進温度、分子回転温度、分子振動温度、電子温度)を考慮した拡張融合衝撃層理論を基に、分子種であるN2, O2, NOの回転温度と振動温度を独立させた多温度モデル(8温度モデル)により数値解析を行っています。機体に与える加熱量をより詳細に算出するためには、このような多温度モデルによる流れの特性、各分子種の振動、回転温度の特性を知ることがとても重要であります。
 解析では、各分子種の振動、回転温度の特性を検討するとともに、従来の4温度モデルの解析結果との比較検討も行っています。
   N2+O⇔NO+N  (1)
 また、式(1)のFirst Zeldovich反応は極超音速流れに限らず、様々な現象においてNO生成の主となる交換反応です。そのため衝撃層内のNOの濃度を求める際には、この反応の反応速度係数が重要になります。そこで、本研究ではMacheretとRichにより提案されているNOの生成モデルについて、その流れ場に与える影響も詳しく検討しています。
 しかし、衝撃層内の温度は地上での実験では再現できないほどの高温(約60,000K)となるので、この反応に対する高温度まで適用可能なNO生成モデルが必要であり、その構築に取り組んでいます。

Copyright© ISAS/JAXA

2004/08/12


山岸 克久(2004年修士入学)
修士論文研究:火星大気突入体周りのDSMC解析(仮題)


−研究内容−

 探査機がマッハ40という高速度で火星大気圏へ突入する際、機体前方には衝撃波が発生し、衝撃層(機体前 面と衝撃波の間)では非常に高温度(約30,000K)となります。このような衝撃波を伴う機体周りの流れ場を詳 細に解析することは、探査機の耐熱設計等において非常に重要であると考えられます。
 私はDSMC(Direct Simulation Monte Carlo)法を用いて、火星大気突入を想定した物体周りの流れ場の解 析を行っています。DSMC法とは、流れ場における支配方程式(Navier-Stokes方程式やBoltzmann方程式等)を直 接解くのではなく、その流れ場に実在する分子一つ一つの挙動(運動や衝突現象等)を統計的に追うシミュレ ーション技法であり、低密度領域で有効とされています。実際には実在する全分子の中から一定量の分子を代 表として取り扱う、サンプル分子という概念を使用して数値計算をします。計算のアルゴリズムは支配方程式 を満足しており、支配方程式の解に近い結果が得られるため、サンプル分子を用いて流れ場を模擬することが できます。
 現在は4化学種(CO2, CO, C, O)から構成される流れ場の解析を行っています。 解析結果から、物体周りの温度分布、質量分率分布等の諸物理量の検討を行っています。
 右の図は解析によって得られた火星大気突入体周りの温度分布です。図の左方から右方に向かう流れ場内に ある物体(グレー)の前方に衝撃波が発生し、衝撃層では高温度(赤)となっている様子がわかります。
 今後は原子・分子の挙動によって発生する様々な物理現象について検討し、また、分子の内部モード等につ いても考慮する予定です。 


   火星大気突入体周りの温度分布


2004/09/03